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これまでの受賞者

2015年度 第3席受賞

『私の仕事の向こう側』
経営リソース統括部 総務部 天野 美早紀

百貨店地下食品階。そこで私は大学の四年間、接客販売のアルバイトをして過ごした。お店には毎日、多くのお客様が買い物に訪れた。常連の方、新規のお客様、必ず決まった日に来店する方。私が商品を手渡す先には、必ずお客様それぞれの顔が見えた。
お客様の表情の変化や言葉を受け取ることで、お客様の存在を意識し、常に最適なサービスを提供することができたのである。
この経験から、お客様の期待に応えるためには、お客様の存在を常に意識することが必要だと考える。

しかし、直接お客様の顔を見て働くことができる業種ばかりではない。これに気付いたのは、入社後に行われた工場実習だった。
私はラインに配属され、実際にお客様が購入するオートバイの組み立てを行っていた。それにも関わらず、目の前で組み立てているオートバイの向こう側に、お客様の顔を直接見ることはなかった。接客業の様に、お客様が目の前で、私が組み立てるのを見ることができるわけではないのであるから当然だ。
つまり、お客様が私の仕事に対して、直接語りかけることはないのである。それまで目の前で確認できていたお客様の顔が見えず、お客様の存在を忘れていた。目の前のオートバイは、その日製造する何百台の内の一台であり、ただの「モノ」として認識された。そのオートバイを購入する誰かがいる。その人にとっては、「特別」だという意識は失われていた。

人は、製品をただの「モノ」としてしか見られないと、自分の利益のために仕事をしがちだ。次の一台がすぐ隣にあるため、「まぁいいか」という甘い心理が働く。この心理は、求められる品質の最低ラインでの仕事を引き起こし、お客様の期待を越える仕事を目指す気持ちを消失させる。
これは「良い製品を作ってくれる」と信じ、製品を購入してくれるお客様の信頼を裏切る行為である。
では、顔の見えないお客様の存在を意識するためにはどうすれば良いのか。それは、お客様の製品に対する思いを「想像し、共感する」ことだと考える。

工場実習中、コードが少し捩れたことがあった。その状態で製品として出荷しても、品質の最低ラインは守っているため問題はない。
そのため、私の中に「まぁいいか」という気持ちが生まれた。だがその時、オートバイ好きの実習生を思い出した。彼は、自分のオートバイのどこが好きで、どんな時に、どう乗っているのかを語っていた。彼の話を思い出した私は、目の前の製品のお客様はどんな時に、どんな風に乗るのだろうかと「想像し、共感」した。
すると、製品の向こう側に彼のようなお客様の存在が意識され、製品は「特別」となった。結果、今の私の仕事はお客様の信頼を裏切る行為だと感じ、コードの捩れを修正した。
実習中、この想像と共感を繰り返すことで、お客様の存在を意識し、より高品質な製品作りを選択できることを実感した。

私は今後システムエンジニアとして、多くのお客様が使用するシステムを開発する立場となる。この想像と共感は、システム開発の上でも大きく役立つと予想する。しかし、それだけでは足りない。お客様の実際の反応を知る術がなければ、私はいつまでも「想像」の域を超えた仕事はできないからだ。
そこで私は、新たに「検証」を行うようにしたい。システム開発も想像と共感を行うことは今までと同様だ。
システムの場合、システムを利用する目的等が書かれた「提案書」がある。これにより、そのシステムがどのようなものなのか理解できる。 理解できれば、お客様がどのようにシステムを使用し、どんな効果を得ることを求めているのか、想像することができる。その思いに共感することで、より高品質なシステムの開発が可能となる。
しかしその後、想像と共感をただ繰り返すのではなく、システムを実際に自分で使用してみたり、ユーザーからの声を聞いたりして「検証」する。
工場は、システム開発者の立場から見ればシステムのユーザーである。工場実習中私がシステムに対して感じたことは、実際のユーザーが感じる思いと同じだろう。
また、工場の方々がシステムに対して抱いていた思いは、ユーザーの実際の反応である。
実際に使用したり、ユーザーの声を聞いたりして「検証」することは、私の仕事が最適であったのかを判断する良い材料となるのだ。

この「想像」、「共感」、「検証」の流れを繰り返すことで、それぞれの精度が高まり、高品質な仕事へと繋がっていく。常にお客様と共に在り、お客様の期待を超えたシステムを作り続けることで、当社を愛してくれるお客様の信頼に応えることができるのだ。
私の手がけるシステムの向こう側には、どんなお客様がいるのだろうか。「想像」、「共感」、そして「検証」により、システムの向こう側に見えないお客様の顔を描きつつ、「これは私が作ったのよ」と誇らしげに語ることのできる、そんな仕事をしていきたい。

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