2014年度 努力賞受賞

『よりよいシステムの構築のために』
経営リソース統括部 総務部 鶴見 尚
近年の情報技術の進歩は目覚しい。今後も発展が期待されるが、どのような方角に向かって行くのか、正確に予測することは難しい。
私は、輸送機器メーカーの情報システムの開発・保守・運用を担うグループ会社に、システムエンジニアとして入社した。もの作りをするメーカーにとって、生産性を上げるために、情報システムは必要不可欠であり、効率と精度が共に要求される。部品の管理一つとってみても、発注にミスがあれば部品が足りず、生産ラインが止まってしまう。かといって、必要以上に部品があれば、作業スペースが狭くなり、作業者の負担が増す。システムの利用方法が煩雑であれば、ミスを誘発し、余計な時間と労力を費やしてしまうことになる。私は工場実習により、部品供給システムが現場でどのように運用されているのかを自分の目で確認した。実際に作業をしてみて、時間との勝負を切に感じ、作業者が負担なく作業に集中するためには、作業者がいちいち考えずとも作業だけに意識をむけられる環境が重要であり、それがミスを減らすことにもつながるとわかった。現行のシステムが非常に有効に機能していることを感じる一方で、まだまだ改善の余地はたくさんあると感じた。
システムエンジニアの役割は、生産効率をさらに高め、あるいは作業者の負担を減らすために、より優れたシステムを作り出すことだ。状況に対応する柔軟性、新しいものを生み出すために常識に囚われない力が必要だ。私が個人として心がけることは、変わり者になることや少数派になることを恐れずに、確かな根拠のある自分の意見を持ち続けることである。新しい価値観は、それまでの常識や多数決で決まるわけではなく、確かな論理と確実な検証によって支えられるべきだ。思考停止を避け、周囲に流されない根拠のある意見を持つためには、他の皆が賛同していても疑うこと、検証することを習慣化してしまうのが大切だ。その際に重要なのは、相手の意見にけちをつけることが目的なのではなく、誠実な検証が目的なのだと認識することだ。結果として、他の人の意見に振り回されず、自由な意見を出せるようになる。検証を心がけることの副産物として、先入観を排除することができるので、実現したいものの明確なイメージを誤解なく正確に共有することも可能になる。グループ会社という立場上、いろいろな立場の人たちとイメージを共有する必要があり、これも重要である。
変化の激しい情報技術の世界で、私たちはどのように生きていくべきか。私が重要だと考えているのは、情報システムのような狭い意味でのシステムだけを業務の対象として見るのではなく、企業や社会も一つのシステムと見て、業務対象と考えることである。背景にあるシステム、つまり輸送機器業界や、企業構造、生産の仕組みなどを理解しないままでは、有効な情報システムを構築できるはずもない。単なる専門家ではない優秀なシステムエンジニアになるためには、プログラミング言語に長けているだけではなく、常に広い視野を持ち、全体最適を目指すことが重要になってくる。実際、私たちの会社では、ITスキル経験者だけではなく、幅広い分野から社員を採用している。一度定まったシステムは、すぐには変えられない。柔軟なシステムを作るためには、最初から幅広い価値観のもとでできるだけ多くの想定を用意することが大切になる。その上で、想定外にも対応するためには、多彩な人材が必要だ。結果として、企業としての柔軟性向上にもつながるだろう。
チームは、多彩な人材が足りない部分を補い合ってこそ活きてくる。同じ意見、同じ能力の人間ばかりでは、無駄が多い。性別や国籍の観点から人材の多様性を重要視する声もあるが、その発想自体が表面的なものに囚われていると感じる。まずは一人ひとりが意識して個性と得意分野を持つことが重要だ。そのような本当の意味での個性が企業というシステムの中でうまく活かされるようになってくれば、性別や国籍の偏りは自然と解消されてくるはずである。これは特定の自然言語に依存しない情報システム、国を越えても最小限の変更で済むシステムの実現にもつながる。
将来を正確に予測し、ピンポイントで対応することは不可能である。だからこそ、柔軟な対応力と最適な効率とを兼ね備えたシステムとしての企業を成長させ、維持することが重要である。この実現のためには、各個人が変わり者になることを恐れず自分の意見を持つことが大切だ。そして、それをチームとして活かすために必要なのは、新規の意見を感覚で排除せず、真摯に検証すること、多様な価値観に寛容であることだ。その上で、合理的な判断のもとに、たとえそれまでの常識であっても、不要なものを排除していくことで、最適化が図られるに違いない。これが、最適化されたシステムとしての企業の実現につながると確信している。