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これまでの受賞者

2013年度 努力賞受賞

『品質を維持するための真摯さ』
経営リソース統括部 総務部 手塚 保友美

三年前の秋、私は自分の通う大学がある群馬県の高崎で、地域活性化活動に没頭し始めた。きっかけは、産業組織心理学を学ぶために入ったゼミである。このゼミは専門分野を学ぶ傍ら、地産地消の社会実験として始まった「たかさき昼市」というイベントを、地域ボランティアスタッフと共同で運営していた。大学は、公立で地域との連携が比較的強い環境であったため、私を含めた経済学部の学生も地域活性化や地域ブランドについて興味を持ち、経済学と関連させて学ぶ学生が多かった。

ブランドと聞くと、シャネルやグッチなどの高級品を想像しがちであるが、本来のブランドとは消費者が品質の良さ、利便性、魅力、安心という商品としての価値と、独自性を感じたときに初めて形成されるものである。学生時代は地域ブランドについて食の面から学んでいたため、見た目や美味しさ、安全性といった商品としての基本機能があることは前提とし、どうすれば消費者が付加価値を感じ満足してもらえるのかについて考える事が多かった。

しかし、商品としての機能を維持させることが企業にとっていかに大変であるかを、入社後の2ヵ月間の工場実習で知ることとなった。モーターサイクルの生産現場では、品質を維持するために職場全体で様々なルールを決めている。事前研修や日報では、少しでも作業や部品に違和感があればすぐに職長かリーダーを呼ぶように繰り返し教えられた。それでも私は、初めの頃ミスを何度か起こしてしまった。しかし、ミスをした後に職長やリーダーから、自分の担当する作業には何の役割があり、ミスが出ると商品のどこの機能に支障が出るのかを丁寧に教えてもらってからは、ミスは確実に減った。モーターサイクルは食と同様に、基本の品質が損なわれると、事故が起きる可能性があるため、命に直結してしまう。そのため、品質維持を職場全体が意識し、ミスを防止するために何が出来るか、日々考えられていた。

企業は品質を維持しながら、さらに付加価値を消費者に感じさせ商品のブランド化を目指していくが、商品をヒットさせるために付加価値を重視し過ぎると、基本機能がおろそかになってしまう事がある。付加価値に対して効果が感じられない場合、消費者は企業を訴えるのではなく他の商品を購入するという行動をとる。なかには、クレームとして企業に伝えようとする消費者もいるが、それは企業にとってはさらに良い商品を考えるヒントになる。しかし、基本機能が崩れたときは、企業存続の危機に直面する。

私が入社した会社は、メーカーであるグル―プ会社やその取引先に対して、ITサービスとソリューションを提供する企業である。消費者がITサービスに求めることは、ビジネス活動に貢献できる一貫して安定したシステムを、24時間365日使えることである。そればかりでなく、工場でシステムに少しでもミスがあると、それが大きな事故に繋がりかねないため、システムの基本機能は絶対に維持しなければならないものである。

当社はIT業界に特化した国際評価基準であるISO20000を取得し、業務の全てを適用範囲としている。これは日本のITサービス業界では珍しい事である。そして、私達新入社員は、ITスキルを身につけるために1年間という長い研修期間が設けられている。今はシステムの設計について学ぶと同時に、ISOの基準に則った当社の規約を、プログラミング演習を通して学んでいる。プログラミングをする際、自分では規約を守っているつもりでも、必ずと言っていいほどミスがある。その原因は、ルールを覚えきれていないというだけでなく、システムを使用するユーザーやプログラムを見る人を意識できていなかったためであると感じることが多い。

私は工場実習とITスキル研修の中で、品質を維持するためには、それを作り出す社員に真面目さや真摯さが求められると感じた。仕事をする中で故意に品質を下げようとする人は少ないが、品質に対する意識の低さによって、気の緩みは誰にでも起こる可能性があると思う。品質を維持するためには、多くのルールをクリアしていく必要があるため、品質の維持に対して真摯さを持ち続けなければ、長期間継続する事は難しい。これは簡単なことではないが、私は商品を使用するユーザーのことを常に意識し、システムに不具合が生じたらどんな影響が起こるかを考える事が、品質の維持に繋がると考える。私の目標は世界の人に使いやすいと思われるシステムを作ることである。つまり、ユーザーを意識しながら、当たり前の機能をもつシステムを作るという事だったのだ。自分の目標を達成するためにも、品質の維持に対して真摯さを持ち続けるSEになりたい。

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