本文へ進みます
これまでの受賞者

2019年度 努力賞受賞

『顧客≠お客様』
ヤマハモーターソリューション株式会社 内田 雄也(うちだ ゆうや)

業種を問わず企業にとって品質保証とは難しい課題である。常により良い品質を追求する必要があるが、一度でも自社の品質に満足してしまえば企業の成長が止まってしまう。そして品質を評価するのはお客様であり、お客様の数だけ基準が存在する。品質は耐久性、デザイン、性能と、様々なパラメータで評価される。そして企業にとって非常に重要な言葉であるため、新社会人は研修を通して品質の大切さを学ぶことが多いだろう。私も品質を考える上で重要なのはお客様である、と研修を受けた。しかしながら、「お客様」とは誰の事を示すのだろうか。配属先によっては全くお客様と関わらない人もいるはずだが、そのように言い切って良いのだろうか。私はこの疑問の答えを新人研修の一環として取り組んだ工場実習から得ることができた。

私は工場実習が始まるまでは、漠然と製品を購入するお客様の事を考えることが大事だと思っていた。しかし、実際に工場に配属されると、自身の作業がお客様のためになっているかどうかわからなかった。一般的にお客様とは製品やサービスを提供する対象の全てを示す言葉であるが、工場の中からでは製品を購入するお客様は見えないのである。だから、私は誰がお客様なのか意識して作業することができなかった。その結果、私は簡単に見分けられる小さな異常に気付かないまま不良品を生産してしまった。明確なお客様を意識しないと検査の必要性を感じなくなる。そして、共通化された手順通りに作業すれば、ほぼ同じ見た目の製品が製造される。その結果、検査をおざなりにして、簡単に気付けるはずの不良を見逃してしまい、次の工程の職場に迷惑をかけてしまった。

この失敗の時に、工場の方から教わったことがある。それは工場における品質とは2種類の組み合わせであるということだ。1つ目は製品を購入するお客様のための品質。2つ目は工場内の次工程で働く人のための品質である。前者は一般的な品質を示すものだが、後者は実際に工場で働いた経験のある人でなければ分からない考えだろう。後工程を顧客として扱うことで自工程の製品に対して品質を高める意識ができる。つまり工場にとって品質を決めるお客様は「顧客」と「お客様」の2種類に区別できる。「顧客」とは次工程の人々であり、「お客様」とは製品を購入する人々である。「顧客」と「お客様」の考え方を各工程で機能させる。そして「お客様」の意見が直接届きにくい工場で「顧客」を通して「お客様」のための品質を守ることができる。私が気付くべき工場の考え方がまさにこれだったのだ。

この考えを理解してから、甘えることなく作業するストイックな雰囲気を私は感じ取れるようになっていた。この雰囲気は、業務にあたっている一人一人が次工程の職場を顧客として見ることで緊張感を保っていると。そして、品質を保証することに細心の注意を払っていることが生み出しているものだ。

工場実習を終えた今、本文冒頭で述べた疑問は次のように解決されると私は考えている。実際に顧客が直接見えなくとも同僚や関係部署等を顧客として扱うことで品質への責任を持つことができ、製品を購入する顧客へと品質が繋がっていくのである。つまりどのような職場環境であろうと顧客が必ず存在するのである。

多くの新入社員にとって品質とはお客様のためであり、それ以上の意味を持たない。しかし、製造の現場を経験した今の私には品質とは「甘さを捨てること」と捉えることができる。私達新入社員は業務を覚えきれておらず失敗することが多いが、周りの先輩社員や上司は手厚く手助けしてくれる。しかし、周りがいつでも助けてくれるとは限らず、早く独り立ちしなければならない。その時に必要なのは上司、先輩や同僚を「顧客」だと思うことであり、「顧客」の先に「お客様」が存在するという意識を持って仕事をすることなのだ。

工場実習を経験して私は新入社員として、企業から向けられる期待に応えるために、「顧客とお客様」の2つのための品質を高められる人材になりたいと考えている。企業は私達新入社員が将来にわたって活躍できる人材に育つことを期待している。この期待に対して、私達は最大限の努力と真摯さをもって応えなければならない。私は新人研修や業務に携わる際に、説明にはない先輩社員の考え方や業務が生み出す効果の話を通して、如何に上司や先輩社員が新入社員に大きな期待をしているのかを感じ取ることができた。これからは、彼ら「顧客」のために何ができるかを考え、その先に繋がっている「お客様」のために自身の業務が存在するという意識の基、これからの研修に取り組んで行く。そして「お客様」と「顧客」の両方を理解できる社員になりたい。

ページ
先頭へ