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これまでの受賞者

2018年度 努力賞受賞

『離職率の低下を実現するための意識改革』
ヤマハモーターソリューション株式会社 小林 未奈 (こばやし みな)

サービス業を対象として、公益財団法人日本生産性本部が行なったヒアリング調査では、人材確保・定着に対する課題には三点あるとしている。一点目は「労働条件」、二点目に「職場環境」、最後に「人事制度」である。それぞれ、労働条件とは、賃金・勤務時間・休日・休暇。職場環境とは、業務負荷や職場風土。人事制度とは、雇用管理・教育訓練・評価システムである。私の就職活動中の経験から推測すると、この三つの課題について考え、就職活動をした大学生がどれほどいるのかと思う。多くの大学生は、この三つの観点が二の次になっているのではないか。私の大学での就職指導では、会社で働く意欲の見せ方や、学生時代に何を経験したかを表現する方法の講義がある。さらに、企業と接するためのマナーや難解な業界研究を指導することに時間を費やしていた。加えて、私にとって就職活動解禁の前倒しがプレッシャーとなり、苦労した。

大学でこのような指導が行われる背景には、一律に礼儀正しい学生を求め、仕事に対するやる気や、学生時代の経験をわかりやすく論述できる優秀な学生を採用する傾向があると考えた。しかし、従来の採用活動で、本当に学生の人となりがわかるとは思えない。

厚生労働省の調査によると、平成二十六年度の大卒入社者の三年後離職率は三割だ。理由として景気が回復したため、転職しやすくなったことを挙げている。ミスマッチによる離職は抑えられているとし、肯定的である。しかし、どの企業も転職を想定して学生を採用してはいない。採用したからには、その会社で学び成長し、そして、長く働いてほしいに違いない。

学生時代には、就職活動こそがイニシエーション化されているように感じ、働くことはとても特別なものだと考えていた。しかし、私は入社して初めて、働くことは特別なことではなく、生活の一部であることがわかった。考えてみれば、一日の三分の一は職場にいるわけである。それならば、自分が過ごす時間のことを考えるのと同様に、職場で過ごす時間について考えるのは当然である。就職活動中の私にはそれが欠けていた。会社で過ごしているイメージがつかなかったからである。入社したい会社の勤務実態を知るには、学生の立場では困難である。学生が入社したい企業について知る手段は、公開されている資料や口コミ、企業のブランドイメージのみだ。しかし、働くにあたって実際に知っておくべき情報は、冒頭の三つの課題である。

企業側は、学生を集めた合同企業説明会や単独の企業説明会で、限られた時間の中、出来るだけ多くの学生に企業の説明や採用フローの説明をしている。その上で、学生に企業の魅力を伝えなければならない。しかし、その魅力を伝え切れている企業はどれほどあるのだろうか。入社案内のパンフレットを作成して、配布しているだけでは、集まる学生も履歴書や面接でそれをなぞるような人ばかりである。学生が働くイメージを容易に抱くことの出来ない企業案内をしてはいないだろうか。例えば、事業案内は必ずといって良いほどなされるが、学生が理解するにはあまりに難解な内容になっていないか。これは、事業内容を学生が理解できないまま、入社にいたっているという事態をひきおこす。せっかく、学生が企業理念に共感して入社しても、仕事のミスマッチや激務に耐えられず、離職してしまったら元も子もない。

離職率を低下させるためには、学生側では、就職して働くということをより身近に考えることが必要である。実際に働くというイメージを持ちながら情報収集や、採用担当者と会うことを意識しなければならない。企業側では、まず、三つの課題解決の努力に加えて、学生にもっとオープンに会社のことについて伝えることが大事である。

私が、もし今後、採用活動に関わる機会があるとしたら、知っておいてほしいことを私から学生に発信したい。例えば、学生では知りえない、新入社員の時点で感じた職場の雰囲気を伝えたい。私が新入社員としてたった数ヵ月働いただけでも、就職活動時点では思いもよらなかった経験が多くあった。私が入社した会社は、輸送機器メーカーの子会社で、 I Tソリューション企業である。当初、新社会人としての教育やシステムエンジニアとしての研修のみが行われると思っていた。しかし、システムを納入している工場でユーザー目線を磨くための製品組立の実習が、それに加えて行われた。非常に大変だったが、やりがいもあり、社会人として一歩成長できた実習だった。

私は、この企業に入社したいと一人でも多くの学生に考えてもらい、さらに、その学生たちが入社後、抱いていた想像と相違ない説明が誇りをもってできるよう成長していきたい。

参考文献
・「新規学卒就職者の離職状況(平成26年3月卒業者の状況)を公表します |報道発表資料|厚生労働省」
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553.html
厚生労働省
平成二十九年九月十五日
・「若者が定着する取り組み事例集」
URL https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/jireisyuu29_1.pdf
厚生労働省
平成二十九年一月

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