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これまでの受賞者

2017年度 奨励賞受賞

『フォロワーシップが作るチーム力』
ヤマハモーターソリューション株式会社 江坂 佳晃

「フォロワーシップ」。私がその言葉を初めて耳にしたのはおよそ四年前だった。当時アルバイトをしていた居酒屋で、店長が口癖のように言っていた言葉であった。
フォロワーシップという言葉を辞書で引くと、「指導者を補佐する能力。また、部下としての地位・任務。」とある。私はこの意味の通り、リーダーである店長の意見を疑いもせずに受け入れた。そして、そのリーダーが発する指示に従って働くことがフォロワーシップであると思っていた。
しかし、その認識は間違いであったことに気付いた。入社後、同期とミーティングを行い、研修の進捗を上司に対して報告する機会があった。私もそのミーティングに参加した。その場において、間違ったフォロワーシップを発揮し、同期のリーダーに対してただ同調し、従うだけの議論を行ってしまった。その結果、偏った視点からの報告しか行うことができず、上司から注意を受けることとなった。この経験から私は、本当のフォロワーシップとは何か、と疑問を抱くようになった。

フォロワーとしてリーダーの指示に従うことはもちろん大切である。しかし、それに加え、チームの活動をよりよくするための提案を行うことも、フォロワーシップなのではないかと考えた。実際に次のミーティングにおいて、疑問を感じたり、もっとこうしたほうがいいと思ったりしたことは、すぐに同期のリーダーやメンバーに対して意見をし、会議が円滑に進むよう働きかけた。すると、チーム内での議論が活発になり、結果として上司に対する進捗報告の質も上がった。この経験から、リーダーを信頼し従うこと、チームに対して適切な提案を行うこと、そして時には自分からリーダーに代わって前向きに働きかけること、以上の三点がフォロワーとしての責務であると気付くことができた。
では、フォロワーがフォロワーシップを持つことで、果たしてチーム力は向上するのだろうか。もちろんそれだけでは足りない。組織を牽引するリーダーにもフォロワーシップは必要である。

入社後に行われた研修の一環で、六人一組でチームを組み、工場経営のシミュレーションを行った。私はその研修においてリーダーを経験した。その研修は始めに生産会議を行い、生産の方針を決めた後、生産に取り掛かるという流れで進行した。私は生産会議で方針を決定し、その通りに実行することに気を取られ、生産中のメンバーに対してあまり注意を払わなかった。その結果、全六チームの中で最下位という成績を取ってしまった。その研修の反省においてメンバーから、生産中にもう少し個々のメンバーの進捗を気にして、遅れている部分のフォローに入ってほしかったという意見があった。生産中にメンバーの動向に目を配り、道具の補充や生産のフォローなど、メンバーの生産環境を整えることに注力すれば、今回の研修の結果は違ったものとなっただろう。リーダーにもフォロワーシップが求められることを痛感した瞬間だった。

ここで、チームを一つの船の航海に例える。チームにおけるリーダーは、船の行く先を決定する船長だ。それに対し、舵を取り帆を上げて実際に船を動かすのがフォロワーである。この船員が船長の指示に従わずに自分の思う通りに舵を切ってしまえば、船は当然目的地とは大きくかけ離れた方向へ向かってしまう。かといって船のエンジンや設備に不備があったり、行く航路上に異常が発生したりした際にも関わらず、船長の言うことにのみ従いそのまま航海してしまっても、目的地からは遠ざかってしまう。船長の指示に従いつつも、状況に合わせ、船長に改善提案を行い、最適な航海になるように働きかけをすることが必要となる。これがフォロワーのフォロワーシップである。リーダーである船長は、気候や所要時間、船員からの情報など、様々な要素から航路を決定しなければならない。しかし、船長の仕事は航路の決定をして終わりではない。航海中も船員の状況に目を配り、疲れている船員には別の人員をあてがい、設備の不具合によって船員の仕事に影響が出るならば早急に対応することが求められる。つまり、船員が気持ちよく航海できる場を整えることが必要である。これがリーダーのフォロワーシップだ。リーダーとフォロワーがお互いを信頼し、それぞれがフォロワーシップを持つことで、チームという名の船の舵が取られていくのである。

会社という組織も、経営目標に向かって協力して仕事をするという点では、構成人数に関わらず一つのチームである。ゆえにリーダー、フォロワーに拘らず、組織を構成する一人一人が船の構成員のような意識を持つことが大切である。そして、それぞれがフォロワーシップを磨くことこそが、チーム力の向上ひいては会社を成長させることにつながる第一歩となるのではないか。

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