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これまでの受賞者

2017年度 奨励賞受賞

『企業に必要な視点を考える』
ヤマハモーターソリューション株式会社 ハビブザデバネギ パリチェヘル

大学二年生の終わり頃、商学を学んでいた私はマーケティングのゼミに入った。ゼミ活動の中で二回ほど企業とタイアップ企画を行った。売り上げ向上のためのサービス提供案と新商品の開発案だ。どちらも消費者行動論に伴った内容だったが大学生らしいフレッシュな案を求められた。斬新さを狙ってみたり、定番をアレンジしてみたりと多くの考えを提案した。しかし、いずれの案も企業の担当者は首を縦には振らなかった。案を採用する以上、サービスや商品を提供する企業としても責任がある。突拍子もない案や既存の案では当然とも言える反応だったが納得がいかなかった。その経験でどんな形であれ商品の提供は容易なことではないと痛感した。

では、なぜ意見が通らなかったのか。私達は顧客の情報を得るために一ヶ月半かけて駅周辺で年齢層別に分けて聞き込み調査を行った。大学内でも目的に応じたアンケートを採った。だが時間を尽くしても良案として採用されるための材料が揃うことはなかった。
考えられる理由としては、ゼミ内には誰一人としてサービスや商品を提供する現場を知っている人がいなかったことだ。求められている視点、そして責任感。その時の私達にはこれらの全てが欠けていたといえる。つまり意見が通らなかったのは、顧客の求めているものではなく自身が作りたいものを案として出していたことが一番の要因ではないかと考えた。そもそもの視点が間違っていたのだ。では正しい視点とは一体なんなのか。

入社後、私はモーターサイクルを扱う工場で2ヶ月間実習を行った。工場の現場に入ってすぐに気がついたことがある。従業員の品質への意識の高さだ。気付いた中でも特に徹底していた三点を挙げる。まず初めに教育の充実だ。現場では作業工程の確認を徹底し、自分の仕事について理解をするための講習も受ける。次に作業の習慣付けだ。作業工程を正しい手順で身体に覚えさせることで通常作業における些細な変化や違和感を発見することができる。最後に報告の徹底だ。どんな些細なことでも報告し自己判断は避けていた。疑わしい状態のものを次工程に流さないためだ。モーターサイクルを扱う現場では、どんなに小さな部品であろうと傷や紛失の一つも見落としたり、放置したりしてはいけない。製品の不良だけでなく人命にも関わるからである。

以上の三点は間接的に品質向上へと繋がっている。他にも不良や異常が発見された際は情報を共有し再発防止に努めていた。以上のことを従業員全員がより良い製品作りのために徹底して行い一つの傷も見落とさない姿勢であった。更に新しい発見をした。不良や異常が出た際に報告をして共有すると前述したが、その伝え方が喜ばしいことであるかのようだった。

これが私にとっては疑問であった。不良や異常が出たことで作業の遅れ、納期の遅れに繋がるならば、喜ばしいこととは到底思えなかったのだ。不良や異常を出すことは納期の遅れだけではなく、顧客の信頼を失うことにもなる。顧客が求めるものは品質の良い物だけである。
問題のある製品を発見し工場内に留めることは、顧客の手に品質の良いものだけが届くことになる。顧客の視点で考えると確かに喜ばしいことである。さらに、情報共有をすることで再発防止になると前述したがこれも理由として該当すると言える。以上で述べたことが理由であるとすると確かに喜ばしい。上記を意識して仕事をすることで輸送機器メーカーとして安心安全を提供しなければならない「責任感」が生まれていたと言える。故に顧客が求めるレベルの製品を提供する意識を常に持っている行動ができていたのではないか。

今振り返ってみれば大学生時代に企業とタイアップした自身は企業の方に認められる案を出すことに必死であった。だが実際の現場では、顧客の求めるレベルの製品を作ることを最優先に考えており製品への意識レベルの違いを凄絶に感じた。
弊社は感動創造を企業目的に掲げている会社のグループ内にある情報ソリューション企業だ。弊社がシステムを提供する顧客の求めるレベルは常に高い。故に期待を超える製品を提供し続ける必要がある。顧客が求めるレベルだけを提供することは、他社もできることである。これでは期待を超えることは難しい。より良い製品作りは顧客視点に合わせること、そして顧客が求めるモノへ会社全体の意識が向くことが重要であると言える。
顧客視点に合わせること、それはすなわち顧客と同じ立場に立つということだ。大学では顧客と同じ視点を持つことができなかった。私は工場での経験を経て「顧客視点を持つこと」がいかに重要かを学んだ。顧客にとって何が一番大切であるかを常に意識した行動をとれる社会人へとなりたい。

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