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これまでの受賞者

2010年度 奨励賞受賞

『人々を魅了し続けるために』
経営リソース統括部 総務部 坂本 弥生

サグラダ・ファミリアと企業活動。似ても似つかないこの二つの話を初めて聞いたのは入社して二日目の事だった。

サグラダ・ファミリアはスペインにある大聖堂で百年以上経った今も建設が続いている。

百年以上も人々を魅了し続け、設計図なしでも建設が続く大聖堂を設計した人物は、とても魅力的でリーダーシップのある人なのだろう。予てよりどのような人物が人々を魅了し、リーダー的存在になるのだろう、と疑問を抱いていた私は、サグラダ・ファミリアの設計者ガウディに興味関心を抱くようになる。

また、私は社会人になり、実際に社会で活躍しているリーダー達と、自分が考えるリーダー像の間に大きなギャップがあるように感じていた。このギャップとガウディへの関心が後に一本の線で結ばれる事となる。

そのきっかけとなったのが、ピラミッド製造シミュレーション研修だ。この研修は、数名の新入社員から成るチームを一つの会社とみなし、他チームである競合他社と競い合いながら厚紙で八センチ四方のピラミッドを製造、納品していくというものである。この研修で私はリーダーを務めた。

私がリーダーに必要だと思う要素、それはカリスマ性、人の能力を見抜く力、決断力である。この考えに基づき、研修ではメンバーの意見をまとめ、決定事項には決断を下し、適材適所で仕事が行われるよう進めた。実際にチームワークはきちんと取れていた。しかし、会社として納品した製品のほとんどは不良品とみなされ、売上には全く結びつかなかった。自己満足の世界だったのである。

そこで、講師の方に言われた言葉が「品質へのこだわり」である。私はこの「こだわり」という言葉にハッとした。私は自分がリーダーとしてチームをまとめる事しか考えておらず、実際に顧客に売り出す製品に何のこだわりもなかったという事に気付いた。つまり、製品に対する情熱を持っていなかったのである。

学生時代のサークルのような組織であれば、前述の様な自己満足の世界で問題ないだろう。しかし、企業活動の最大の目的は顧客の創造、社会への貢献である。つまり、自己満足で終わってはいけないのだ。また、世界的大不況である今日、こだわりや情熱がなければ、製品の質の向上にも結びつかず、顧客の創造が困難になる。更に、製品に情熱を持つ=自身の仕事に情熱を持つという事でもあり、情熱を持った人や物が魅力的だ、という仮説を立てれば、リーダーが必然的に情熱を持っているという事になるだろう。

では、ガウディはどうであろうか。彼は特にリーダーシップをとっていた、人をまとめていたというわけではない。カリスマ性は確かにあるかもしれないが、寡黙で多くを語らない人柄から、敵は多かったそうだ。しかし、彼は人生の大半をサグラダ・ファミリアに費やし、常により良い物を求めていた。晩年は建設途中の部屋に住み込み、作業をしていたそうだ。やはり、彼の建築に対する情熱ゆえに人々は魅了され、百年経った今も彼の意思は受け継がれているのだと感じた。

ここで、自分自身に還元してみる。私はIT企業に所属しており、提供する物はシステムである。システムというと、実際に手にとって使う物と比べ、高品質な製品というものがイメージしにくい。だからこそ、製品には情熱やこだわりが必要なのではないかと思う。社会から求められる製品、愛し続けられる企業・人になる為には、知識や技術以前に「情熱」、「こだわり」が必要不可欠なのである。

ガウディの、熱い思いを受け継いだサグラダ・ファミリアは、この先もずっと、その輝きを失わず、人々を魅了し続けるだろう。ガウディ、そしてサグラダ・ファミリアに魅了された人の一人、外尾氏は著書の中でこう綴っている。

「建築家ガウディを見るのではなく、ガウディの見ていたものを一緒に見、行こうとしていた方向に一緒に行こう。」

真の意味で人々を魅了し、リーダー的存在として人を、そして時代を引っ張っていく人というのは結論を押し付けるのではなく、人々に考えさせ、自ら気付かせていく事が出来る人なのだと思う。その際に重要な要素になってくるのは、やはり情熱であると思う。

今、私たち企業・人・製品に求められているものもまた、誇れるような熱い情熱やこだわりなのだろう。

私自身が今出来る事は企業が持つ情熱を理解し、同じ方向を向く事。企業に貢献出来るよう知識を身につける事。そして、企業側から必要とされる、あるいは魅力的だと思われるよう、自身の情熱を持つ事である。今、必要不可欠だと気付くことが出来た、「情熱」や「こだわり」を追求し、周りの人、企業、そして社会の人々を魅了し続けられるような人に成長していきたい。

参考文献
「ガウディの伝言」 外尾悦郎 光文社 2006年7月 298ページ

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