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これまでの受賞者

2009年度 奨励賞受賞

『お客様の期待を超える仕事』
エンジニアリング部 大原 由紀子

当社は、女性や文系出身者が多く活躍するIT会社である。ITを知らない新人でも採用するのだから、入社後の研修は毎日ITの知識を叩き込むばかりだと思っていた。入社して三ヶ月、私の予想とはまったく異なり、親会社が扱う製品であるオートバイの組立実習や工場見学など、バラエティに富んだ研修が組まれていた。しかし、これは情報システムを作る業務の中で、顧客視点に立つための布石であることを、徐々に感じるようになった。私がそれを最も感じたのは、「ピラミッド製造シミュレーション研修」である。

これは、五人一グループでピラミッド製造工場を作り、組織編制、生産会議、生産、決算報告など工場経営を疑似体験するという二日間にわたる研修だ。ピラミッドと言っても、画用紙製の一辺八センチメートル程の三角錐である。一日目、十二個のピラミッドを納品せよという指令を受けたが、私たちが生産できたのは三個。その中で良品とみなされ納品できたものは、ひとつもなかった。そのとき「これでは仕事をしているとは言えない。やる気があるのか。」と、社会人になって初めて講師の方に怒られた。私たちは一生懸命やったのにそれをなぜ認めてくれないのか、悔しい思いでいっぱいだった。二日目、悔しい思いを引きずりながらも、今日こそ生産したものが全て良品とみなされ納品できるよう、グループで考えた。寸法が間違っていないか、外観はきれいか、接着の際へこみをなくす組立方法はないかなど、認められる製品を作るために必死になった。最終的には、九個中六個を納品することができ、当初ひとつも認められなかった私たちにとっては、大きな達成感を味わう結果となった。

研修の最後にわかったことだが、講師の方は主観的に良品かどうかの判断をしていたわけではなかった。専用の測定器を用い寸法を確認し、汚れやへこみの有り無しで客観的に判断していた。親会社の主力製品であるオートバイは乗用車と違い、エンジンやフレームが前面に出ており、デザインを決める重要な役割を担っている。そのため、主観的に判断してしまいがちな外観品質についても、誰が見ても納得がいく基準を定める必要がある。今回は画用紙製のピラミッドであったが、誰が見ても認められる製品を作らなければならない、そんな当たり前のことを痛感する研修でもあった。

しかし、社会ではこんな悠長なことは通用しない。今お客様の要求するものを作っているだけでは、百年に一度と言われる不況の中で、会社は生き残ることはできない。最初から「お客様の期待を超える製品を作ること」が求められていると、私は考える。

新人研修の中で、顧客視点の重要性について上司から学ぶ機会があった。二十世紀、物が不足している時代は、得意な技術から発想し、品質管理が検査として後回しになっていた。その結果、自分たちの都合第一となりがちで、顧客の要求を満たすことやクレーム対応も後手になってしまった。では逆に、顧客の要求から発想するとどうであろう。顧客が要求していることは、購入後正常に動くこと、そして故障してもアフターサービスを十分してくれることである。品質保証をまず考えると、顧客との視点の違いはなくなりトラブルは解消されるはずだ。自分の業務に関していくら豊富な知識や技術があったとしても、顧客の視点に立ち、顧客が満足する製品を作らなければ利益を生むことはおろか、仕事をしたとは言えないのである。当社が、新人研修から顧客視点に立つことの重要性を、私たちに説いていたことを実感した。

では「お客様の期待を超える製品を作る」ためには、どんなことが必要であろうか。私は第一に、お客様を知ることが重要であると考える。業務を進める中で、人はどうしても自分の都合のいい方に物事を持っていってしまいがちである。最初にお客様と接し、どんなことが求められているか明確に目標を設定することで、おのずと結果は顧客視点に立ったものになるであろう。そして第二に、自分を知ることである。ときに、お客様の言っていることが全てではない。自分の軸をしっかり持ち、他者と比べどんな強み・弱みがあるかはっきり意識することで、お客様の言葉を判断する目を持つことが可能となるであろう。仕事は、お客様と自分の関わり合いの中で生まれるものだと、私は思う。そして、その両者をしっかり知ることが「お客様の期待を超える製品」につながると考える。

「顧客視点を大切に」と口では簡単に言えるものの、行動に結びつけることは難しい。日々変化し、納期に追われる実際の仕事では、ピラミッド製造シミュレーション研修のように、与えられた業務をこなすことだけに追われてしまうように思う。研修で学んだ顧客視点の重要性を意識し、自分の仕事を常に検証することを忘れないようしたい。

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